Google re:Workの解釈~心理的安全性の実践~

 

1Google re:Work

Google re:Work(リワーク)は、Googleをはじめとする様々な組織が行っている人事施策に関わるプロジェクトです。このプロジェクトの目指すところは、「働く」をより良いものにすること。そのためにデータ分析を基にした先進的なアプローチを採用し、働き方の新たな可能性を模索しています。これらの人事施策と、その結果はウェブサイト上で共有され、他の組織でも利用可能で、働き方を改善するためのアイデアとなります。

そのアイデアは、Googleの提供するネットサービスやソフトウエアのように、Google re:Workもまた世界中の組織に大きな影響を与えています。

この記事では、Google re:Workの取り組みをとおして、心理的安全性とアンガーマネージメントという二つの主要なテーマに焦点を当て、その重要性と影響について詳しく考えます。

 

2Google re:Workの教え

Google re:Workは、従業員を最優先にし、人事戦略や人事施策を策定する際にデータを基に意志決定を行う「データドリブン人事」の実践と研究を推進しています。その目的は従業員がより幸せで健康的で、生産的な職場環境を実現することです。

 

その中で重視しているのが、「心理的安全性」という概念です。これは、メンバーがチーム内でミスをしても、それを理由に非難されることはない、という信念を指します。この概念は、ハーバードビジネススクールのリーダーシップ教授のエイミーC.エドモンドソンが1999年に提唱しました。

 

Googleの研究によれば、パフォーマンスの良いチームには5つのポイントがあると発表しました。それらは次のとおりです。

 

1.心理的安全性:このチームでリスクを取っても、不安や恥ずかしさを感じることはない。

2.信頼性:お互いに期待通りの仕事を時間通りに行い、約束を守ることができるかどうか。

3.構造と明確さ:チームの目標、役割、実行計画が明確かどうか。

4.仕事の意味:メンバーは自分たちの仕事に対して、情熱やモチベーションを持って取り組むことができるかどうか。

5.仕事の影響:メンバーが自分たちの仕事が、大きな目標やビジョンに貢献していると感じるかどうか。

これら5つのポイントの中でも、心理的安全性が最も重要であり、他の4つの基礎となっています。

 

チームメンバー間の関係の質は、チームの業績、エンゲージメント(チームとメンバーとの間での確固たる信頼関係)、イノベーションを生み出す力に大きな影響を与えます。特に、メンバーが互いに信頼し合い、チーム内で質問したり、リスクをとったり、失敗したりすることが許容される環境は、チームの生産性を高めます。Googleのリサーチチームは、心理的安全性を高めることで、チームのパフォーマンスと創造性が向上することを発見しています。

 

3Google re:Workからの学び:チームと生産性の改革

Google re:Work」を活用することで、働き方の先進事例や研究、アイデアを引き出し、チームの生産性向上やより良い働き方を追求することが可能となります。その一方で、個々のマネージャーの役割は、こうした改革の実現には欠かせません。マネージャーが適切にリーダーシップを発揮することで、チームは最高のパフォーマンスを引き出し、生産性と創造性を高めることができます。

 

Googleの研究から見つかった「優れたマネージャーの10の行動」は、こうしたリーダーシップの鍵となります。

 

1.良いコーチである:部下の強みに対して具体的で建設的なフィードバックを提供します。

2.チームからメンバーに権限委譲し、マイクロマネジメント(過干渉)を行わない:部下に自由とチャレンジできる環境を提供し、マネージャー自身はよき相談相手になります。

3.成功と幸せに関心を持つチーム環境を作る:部下を単なる従業員とみるのではなく、個人的な希望、価値観、感情を持つ人間として理解し、部下が仕事だけでなく、プライベートでも充実した人生を送ることができるようにします。また、新人を温かく迎え入れ、変化のストレスを減らします。

4.生産的で目標達成に集中する:マネージャーが業務の目標を明確にし、優先順位を付けて働けるようにし、障害を取り除く意思決定(必要なリソースやサポートを提供する意志決定)を行い、効率的かつ効果的に働くことを促します。

5.良いコミュニケーターである:全員参加の会議と具体的なチームのゴールを設定し、部下の質問と関心に耳を傾け、オープンな対話を促します。

6.キャリア開発を支援し、パフォーマンスを話し合う:部下のキャリア開発を支え、パフォーマンスについて定期的にフィードバックを与えます。

7.チームの明確なビジョン/戦略を持つ:チーム全体が向かうべき方向を示し、それに基づいて目標を設定します。

8.チームを助けるための専門的なスキルを持つ:マネージャーが自分自身の専門知識を用いて部下を助け、アドバイスを提供します。そのためには、マネージャー自身が高いレベルの知識や技能を持ち、適切なアドバイスやガイダンスのできる能力が必要になります。

9. 組織全体で協力する:部署やエリアを越えて協力し、一緒に働く人々を尊重し、他のチームと情報やリソースを共有することを奨励します。

10.強力な意思決定者である:リーダーが迅速かつ効果的な意思決定を行い、部下が自分自身の意思決定能力を向上させることをサポートします。また、部下が自分自身の意思決定能力を向上させるために、リーダーは部下に適切なフィードバックや指導を行い、部下が自信を持って意思決定を行えるようにサポートします

 

Googleの研究では、これらの行動がマネージャーのパフォーマンスとチームの成果、具体的には離職率、満足度、そして組織のパフォーマンスに強く関連していることを示しています。そのため、優れたマネージャーの行動を育成することは、組織全体の成功に直結すると言えます。また、「心理的安全性」を高めることにより、人々がリスクを取り、自由に意見を述べ、新しいアイデアを提案することができます。

 

Google re:Workのアイデアを活用し、これらの行動や考え方を日々の仕事に取り入れることで、各組織はより高い生産性と創造性を達成することが可能となります。チームの成功は、各個人が自分自身の最善を尽くすことから始まるのです。

 

4.チームの自由な発言と創造性を育む環境

Googleの研究チームは、「心理的安全性が高いと、チームのパフォーマンスと創造性が向上する」との調査結果を発表しました。心理的安全性とは、メンバーが互いに信頼し合い、チーム内で質問したり、リスクをとったり、失敗したりすることが受け入れられる環境を指します。Googleにおいて、心理的安全性が高いチームのメンバーは、離職率が低く、他のチームメンバーが発案した多様なアイデアをうまく利用することができ、収益性が高く、パフォーマンスの高い仕事とマネージャーから評価される機会が2倍多いという特徴がありました。この環境を維持・促進するためには、チームメンバーが直面する可能性のある4つの不安を理解し、それらに対処することが重要となります。

 

1.無知への不安: チームの目標や戦略について知らないこと、または分からないことに対する不安です。これを克服するためには、質問や学習を奨励する文化を形成することが重要です。これは、チームの理解を深め、仕事の意味を共有することに繋がります。

2.無能への不安: 自分の能力不足や、自分がミスをすることに対する不安です。これを克服するためには、ミスを学習の機会と捉えることが重要です。ミスは避けるものではなく、成長と学習のための機会ととらえ、その経験から学びを得ることで、チーム全体の可能性が広がります。

3.否定への不安: 自分の意見や視点がチームに否定されることへの不安です。これを克服するためには、チーム内での意見の多様性を尊重し、安全に意見を表現できる環境を作り出すことが重要です。これにより、チーム全体の創造性を高め、新しい視点やアイデアを引き出すことができます。

4.邪魔への不安: 自分がチームの進行を妨げてしまうことへの不安です。これを克服するためには、チームの目標達成にどう貢献するかを理解することが重要です。チーム全体の目標と自分の役割を明確にすることで、個々のメンバーが自分の仕事がチーム全体にとって重要であると感じ、自信を持つことができます。

 

以上のように、心理的安全性を高めるためには、チーム内での信頼と尊重の文化を醸成し、メンバーが自由に意見を表現し、質問し、学ぶことを奨励することが必要です。また、各メンバーが自分の役割とチーム全体の目標を理解し、自分の仕事がチームにとって重要であると感じることが重要です。

Googleの研究によれば、心理的安全性が高いチームはパフォーマンスや創造性が向上し、離職率が低くなるとされます。心理的安全性を高めるには、無知、無能、否定、邪魔への不安を克服することが重要で、これを達成するためには、チーム内での信頼と尊重の文化を育て、自由な意見表現や学習を奨励し、個々の役割とチームの目標を理解することが必要です。

 

5.効果的な対話と組織内の衝突解決

心理的安全性が確保されたチームでは、自由な発言と創造性が育まれます。しかし、意見の対立や衝突が生じることもあります。このような状況を前に、アンガーマネージメントの技術が必要となります。

 

アンガーマネージメントは、怒りを適切に表現し、そのエネルギーを生産的なものに変えるスキルです。認知行動療法の一環として、"アンガーログ(怒りの記録)"の作成が推奨されています。このログは、怒りの瞬間を具体的に記録し、後でその経験を反省し、将来のトリガーに備えることを可能にします。

記録する内容は、「日時」と「場所」、「何があったか(事実)」「思ったこと」、「怒りの強さ(点数)」です。(スマホなどを用いて記録するのでも大丈夫です。)

 

アンガーログは、"認知の歪み"を特定し、歪みに反論するための手段を提供します。これにより、不適切な思考パターンを正すことができ、怒りの感情を適切に管理する力を身につけることが可能となります。

また、このログの作成は、怒りの感情と深く関連した個々の人の期待と欲望を特定するのに役立ち、その人が自分自身の価値観についてより意識的になることが可能となります。

 

Google re:Workはアンガーマネージメントについては触れていませんが、このアプローチは、チームの心理的安全性を高め、効果的な対話と衝突解決に貢献する可能性があります。そして、チームは更なる成功を達成することが可能と考えます。

 

6.共に学び、共に成長する: Google re:Workの教訓とその適用

心理的安全性は、失敗を恐れずに新しいアイデアを提案したり、自己を自由に表現したりすることを可能にする職場環境を示します。これは、共に学び、新たな取り組みを試すことを奨励する一方で、それぞれの個々の成長を促進します。アンガーマネージメントは、感情のコントロールと対人スキルの強化に重点を置くことで、職場内の対話と協力を促し、共に成長する環境を醸成します。

 

組織がこれらの概念を理解し、適切に取り組むことで、職場環境を改善し、生産性を向上させることができると述べています。記事は、これらの取り組みがただの目標ではなく、組織全体が共に学び、共に成長するための重要なステップであると位置づけています。

 

この記事は、Google re:Workのプログラムが提供する教訓とその適用を通じて、職場をより良いものにする可能性を示しています。それは、個々のメンバーと組織全体が一体となって学び、成長し、生産性を向上させるための具体的な戦略を示しています。これにより、職場はより安全で協力的な環境を形成し、持続的な進歩と成長を達成することができると示唆しています。

 

参考サイト

Google re:Work (英語版)

https://rework.withgoogle.com/

Google re:Work (日本語版)

https://rework.withgoogle.com/jp/

参考文献

・チームが変わり生産性が劇的に上がる! 心理的安全性の築き方見るだけノート 山浦 一保 (監修)

・中学生・高校生向けアンガーマネジメント・レッスン ――怒りの感情を自分の力に変えよう スーザン・ジングラス・フィッチェル 著

・あなたのまわりの怒っている人図鑑 安藤 俊介  著

 

文/Y.Y.